湘南江ノ島

短かかった、夏が終わる。

学生たちは宿題に追われているのだろうか、

稲村ガ崎の名前に惹かれ、ふと、湘南へ行って見よう、という事になった。

葛西より首都高湾岸線に乗り、いざ、鎌倉へ
朗らかな土曜、程好く晴れ、程好く曇っている。
完璧なお出かけ日和だ。

羽田空港をくぐり、横浜ベイブリッジを跨ぐ。
有名なベイブリッジより、鶴見つばさ橋のほうが立派に見えるのだが、

京浜工業地帯の石油コンビナートを抜け、お洒落な横浜の高速に入る。
千葉のコンクリート打ちっぱなしの無機質道路とは違い、トンネルにはエッチングされた装飾が施され、路肩は植樹され、太陽は若々しい陽光を散らす。
同じ東京の隣でもえらい違い。

1号線に沿って南下、
突如、目の前に富士の峰が姿をあらわした。
圧倒的存在感のそれは、雪を溶かしきり、見慣れた富士の姿とは違った表情を見せる。
富士は見る時、見る場所、見る人により、表情を変える。
他の山には無い、その多面性に惹かれる人も多いと聞くが、なるほど、納得だ。

しばらく走り、関東平野を外れてくると、
まさに、しわ寄せと言う言葉がぴったりで、起伏が激しくなり、道も細くくねってきた。

でみせや提灯が目立つようになり、観光地としての賑わいが、鎌倉が近づいていることを感じさせる。
ふと、小さな踏切をわたると、昭和のバスのような江ノ電が狭苦しそうに止まっていた。
江ノ電の旅と言うのも、風情があって良さそうだ。

細い山岳道を抜けると、海が開けた、由比ヶ浜だ
湘南の海は、夏の終わりを思わせないほど、明るく輝き、
海岸沿いでは、サーファーがその技を披露し合い、沖合いではウィンドサーファーが風に身をゆだねていた。
海岸に連なる車は、皆、サーフィンボードを乗せ、
地元の青年と思われる、真っ黒に日焼けした人たちが、サーフィンボードを器用に抱えて、海の汐を浴びてぼろぼろになったスクーターですり抜けていく
夏を、夏として楽しむ姿がそこにあった。

九州地方に近づきつつある台風の影響だろうか、波は堤防を飛び越え飛沫を輝かせ、美しい波が絶え間なく海岸を濡らしている。
輝く太陽、吹き付ける風、熱い空気、サーファーにとって見たら、宿題なんてやっている暇ではないのだろう。
1年中泳げる室内プールは便利だが、この陽光も、塩の香りも、叩きつける風も、空気も持ってはいないのだ。
こんな所に家を持ち、縁側でスイカでも突けたら最高だろうなぁ。


しばらく走ると、稲村ガ崎に付く、

観光地としても、有名のようで、鎌倉幕府へ攻め込む際、海の神に宝剣を授け潮を引かせたとか
明治時代に逗子開成中生徒の乗っていた船が転覆し、大量の死者、行方不明者を出し、小学生の兄弟が互いにかばいあって抱き合った姿で見つかったりとか
色々あるようである。
そうでなくても、湘南の明るい海岸とは裏腹に、稲村ガ崎は絶壁に鬱蒼とした木々が立ち込め、皆を拒絶するかのような迫力がある。

稲村ガ崎を抜け千里ヶ浜走ると、江ノ島が見えてきた。
海は、こちらは幾分か穏やかなようで、サーファーより海水浴客が目立つ。

リゾートホテルか、マンションか、カラフルな町並みも広がり、由比ガ浜の渋みとは違い、家族向けの観光地のようだ。

まるで川を渡るかのような手軽さで、太平洋を飛び越え江ノ島に上陸。


江ノ島は、その立派な渡り橋が飛び越えてしまいそうなほど、小さな島でちょっと拍子抜け。
のこの島くらいはあると思っていたんだけどなぁ、

島入り口では大勢の観光客と客引きが慌しく動き回っている。

大きなヨットハーバーがあり、
駐車場も立派なもので。
なりは小さくとも、観光島として発展していることを思わせる。

観光通りに行く前に、あえて、地元の人が使っているであろう、商店街へと回った。
商店街は、細く入り組みいかにも地元に人が使っていると言った感じ

人通りは少なく、島の入り口の喧騒とは違い、静かでゆっくりとした時間が流れる。

釣りのえさや銛が売っていた。ここの魚も美味そうである。
冬に釣りをしに来るのもいいかもしれない。

商店街の小さな、わき道を登ると、崖を掘った納骨堂があった。
説明によると、もとは墓地だったものが、土砂崩れで全て流れてしまい、
先祖の霊を慰めるために立てられたものだという。
中に入ると、外の暑さが嘘のように、シルクのようなひんやりとした空気が、心地良い。


門前の通りは、観光地お決まりの、お土産商店街となっており、
魚介類をその場で焼いていたり、これも定番だが、当地とは何のゆかりも無いようなおもちゃが売っていたりする。
ただいま居留守中です、などといった札も、観光地の賑わいで麻痺した頭には魅力的に移るのかもしれない。

貝の飾りが売っていたので、買おうかと思ったが、良く見ると1,000円以上した。
綺麗なのは分かるが、1,000も出してまで、他人が取ってきた貝殻を欲しいとは思わなかった。

ここで、魚介類の沢山入ったラーメンを食べる事にした。
塩ラーメンベースなのだが、ちゃんぽんを思わせるほど、魚介類が一杯入っている。
これが、凄く美味で、塩ラーメンの淡白な味にアサリのだしが効いていて、独特な塩の香りのするラーメン。
食べても食べても、下から「まだまだいるよ」とアサリが出てきて面白い。

満腹満足な腹を抱えて、門前を登ると大きな鳥居があり、
そこに エスカーのりばなどと言う珍妙なものが

エスカーとは何だ?と思っていたが、ただの屋外エスカレータ
エスカレーターならエスカレータと言えばいいのに、エスカーと妙に略すところが観光地。
しかもなんたることか、350円もお金を取るのである。

あまりにも馬鹿馬鹿しく、当然、遊歩道を選ぶ

エスカーを大々的に宣伝している割には、遊歩道もきちんと整備されており、
景色の良い千里ヶ浜を展望できる。
エスカーは壁と天井がある、半室内状態になっているので、この景色は見えないだろう。
おまけに、1分程度歩いていくと、エスカーの終点があった。
距離的には福岡ドームの前のエスカレーターと良い勝負である。
意外にも、このエスカーは繁盛しており
家族連れが、喜んで乗っていたが、
風景を楽しめず、しかも、歩いて数分のところをわざわざお金出して乗る気持ちが良く分からない。
むしろ、遊歩道のほうが有料であってもおかしくない位だ。
遊歩道の存在を知らないのかもしれない。

階段を昇るのが困難な人以外は、文明の利器にすがる前に、まず、自分の足を信じて見たらどうだろうか、
と思ったら、エスカーを駆け上がる子供たちなんてのもいる。

頂上の江ノ島植物園は改装中だった。
下では、休館中と描いてあったので、てっきりバブル崩壊の煽りで潰れてしまったのだろうと思っていたが、
かなり立派な建物を建設していて驚いた。


植物園の反対側には、地球が○く見える丘という、定番の丘があり、
登って見る。

目の前には広大な太平洋を臨む
当日は霞がかかっていたが、晴れている日は富士山や伊豆諸島も見えるのだという。

地球は○かった・・・

歩みを進めると、ずばばばーーーという不思議な音が響いてきた。
波が岩場に打ち付ける音に似ているのだが、普通は
ずばーん ずばーんとなる所が、
区切り無くずばばばばばばばー と響く
まるで巨大な滝のような音だ。
何事ぞと、覗くと、山二つという場所であった。
侵食で崩壊した崖が、江ノ島を二分しているので山二つと言うのだそうだ。
山が大きくえぐられ、V字型に、切り込まれている。
ここに波が当たるのだが、V字型になっているので、少しずつ波が当り、波の全てがあたり終わる前に次の波が当たるので、絶え間なく、波音が響いていたのだ。
岩場を洗う大量の海水がダイナミックに動き、深い崖は威圧感さえ与える。
その先には、青い海と白い雲が輝く
ここは実に絶景で、見ているだけで、引き込まれそうになるほどだった。

坂の途中で、猫が眠っていた。
この島では、猫を良く見かけるが、ペットをここに捨てて行く人が絶えないのだと言う。
観光施設で、おまけに魚介類にも恵まれているから、きっと生きていけるだろうと、甘い気持ちでも持っているのだろうか、
人間の勝手で、玩具にされ、飽きて捨てられた猫たちは、人間を無視しているようでもある。


なお、歩みを進めると、八方睨みの亀を見つけた。
がんとにらみつけるその目、鋭い爪
模写ではあるが、その絵は迫力があり、亀の平和なイメージとはかなり違う。
原画は劣化により、別所に保管されているそう。
最近模写されたらしく 、実にクリア。


急速に、下り坂が続き、崖下へと降りていく太平洋が目の前に広がる。

突然、大風が吹くと、ヒュィという泣き声と共に空に鳶が舞った。
鳶が湘南浪漫、風に舞っちゃって

定番の一句が頭をかすめる。
下を見ると、海岸沿いの岩場で、小さな鳥が岩場を突付いていた。

波にあおられた、小魚や虫を食べているのだろうか
波が来ると、走って波から逃げるのが面白い。
両の翼を使わずに、チョコチョコと波から逃げる姿はコミカル。
やっぱり鳥としても、いちいち飛ぶと、風に流されるし、落ちたら痛いし、翼も疲れるし、飛ぶのは億劫なのだろうか。
怠け鳥である。

岩屋についた。
波が江ノ島を浸食して作った自然の洞窟だ。

洞窟内は舗装がしっかりしていて、床はコンクリートで固められ、壁には江ノ島各地の説明が、パネリングされ
所々にVIPカーに付いてそうなネオンと泡のでる水筒がおいてあった
自然の洞窟を楽しみにしていたので、これは少し残念

第二岩屋では、地面こそ舗装されていたが、途中は照明も無く
途中で蝋燭を渡された。
細い蝋燭で、真っ暗な洞窟を歩むのは不安もあったが、実際に通って見ると、それは杞憂に終わった。
地下水の漏水で常に湿らされた洞窟は、蝋燭の光を、幾重にも乱反射し、あたりを倍も明るく照らした。

頭をかがめ、奥地には、多くの石像や地蔵が置いてあった。
橋も無く、舗装も無く、安全性も良く分からなかったであろう、時代、ここは僧侶たちの勉強場所であったと言う。
たしかに、静かで夏場でも涼しい岩屋は、勉強に最適であったのかもしれない。
しかし、その不安も相当のものであっただろう。
これら石像は、彼らにとってマスコットとしての役割も担っていたことだろう

江ノ島は、実に面白い地形を持った、見所の多い島だ。
大型観光施設として、昔ながらの生活が息づく島としての二面性も随所に見られる。
特に、山二つは、本当に美しく、面白かった。
岩屋も、長年の侵食の後を力強く見せ付けてくれた。
惜しむならば、東京から近すぎたばかりに、メジャーになりすぎ、

お節介としか言い様の無い過剰サービスが進んでしまったことだろう。
エスカレーターで山を登ったり、地下道のように舗装された洞窟を行くのは味気ない。
ところどころに、最近作ったであろう、近未来的なオブジェクトがあったり、とアンバランス感も目立つ。

当時の人たちの心境に浸りながら、岩屋の最も奥へ到達した時にそれを痛感した。
ドラゴンの人形が置かれ、フラッシュとスピーカーで雷を演出していた。
当時の言い伝えを由来としたものらしいが、これで、一気に冷めてしまった。
充分な素材の前には、下手な調理など、味を悪くするだけである。

岩屋を出て行き来た道を戻る。
潮が満ちてきたようで、岩を突いていた怠け鳥が、大波に煽られて、ようやく飛び立った。

崖を登ると、のどが渇いてきたので、茶店に入った。
最近流行の、金属の扇風機も、木造建築物に

帰り道、TVで特集をやっていた藤沢交番を見つけた。
前任者と比べられ、島民から受け入れられなかった巡査長。
しかし、当時最盛期であった暴走族から、一人身を張って島を守っていることを知った島民たちは、
いつしか、彼を島民の一人として受け入れてくれるようになったと言う。

そんな巡査長の趣味はバイクだそうで、交番の前には、不釣合いに大きなバイクが置いてあった。
相当にエキゾーストノートがうるさいらしく、巡査長は、門前の長い坂をエンジンをかけずに、押して運んでいるのだと言う。

巡査長は不在であったが、交番だけでも拝めたので、凄く満足だった。

江ノ島は、大観光島であったが、見ていて面白い部分も多かった。
それに、ここには、千葉には無い華やかさがあった。
島の駐車場に止めたシルビアは塩でべとべとになり、
家に帰ってきて、すぐに洗車をする事になったが、それでもまた行きたいと思わせてくれた。


しかし、島にはホントに多くの猫がいました。

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